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人が変容し場に命が宿るアートの力、ヘルスケア・アートへ。

 

この夏、ヘルスケア・アート・マネジメント講座の受講を修了しました。

 

この2か月間の学びで、あらためて、「人にとって、社会にとって、アートとは何か?」「私がアートを使って社会で何を表現したいのか?」を再考する機会となりました。

 

アートに生きることを志してきてから、私なりに紆余曲折しながらも、今まで来ました。

「抜け出せないほどに私を魅了しているアートの力があり、その力に惹きつけられてきた」というのが、実際のところです。アートが私を惹きつけてやまない部分。それは、人の普遍的な生命力と関わっている。そこに気づいてから、アートが美的鑑賞物となるだけでなく、アートをきっかけに、人がダイナミックに変容し、生き方の価値観さえも変えてしまう現場を多く目撃してきました。そうした経験から、「人が変容し、場に命が宿るようなアートの活用法がある(アートは場の装置になる)」と直感し、多くの人がこのアートの機能にアクセスできるよう、普遍性を抽出し、理論化することはできないだろうかと模索した20年です。

 

私が積極的に制作・研究活動していた10年~20年前の日本では、ヘルスケア・アートという考え方や実践もまだまだ希少で、手探りでした。当時は、アートセラピー(芸術療法)が一般に情報が出はじめ、ホスピタルアート(メディカルアート、アート・イン・ホスピタル)を取り入れる先進的な病院が全国でもチラホラという段階。社会の中にアートを医療に活用できるという価値観も皆無で、情報も理論も限られていたため、私が経験的に体感しているものを言語化すること、医療現場の方々にその効果を説明し、理解を得ることも非常に大変でした。けれど、30年後の世界では、必ず必要とされる分野であると、なぜか確信だけはありました。

 

当時、芸大の中で学部・修士・博士へと学びを進め研究をしていても、理解にはかなりのばらつきがあり、「そんなことをやって何の意味がある?」「人を癒すために絵を描いているわけではない!」「理屈をこねてないで、手を動かせ、もっと絵を描け」「先行研究が無いものは、研究にならない」…等、なかなかの向かい風を感じ、芸術専門分野ではかえって理解を得られないことも多く。異分野(医学、精神医学、心理学、哲学、民俗学、医療人類学等)へも知見を広げながら、何か手がかりはないか…と模索を続けていました。「アート×医療」「アート×こころ」のメカニズムが知りたい!その探究心だけが、私の背中を押し続けてきました。

 

そして、現在はどうでしょうか。アートが社会の様々な分野で注目され、活用が盛んになってきています。医療や福祉、メンタルヘルスの分野でももちろん、積極的な導入がまさにはじまろうとしています。興味深いのは、今回、受講していた「ヘルスケア・アート・マネジメント講座」は、3年間の人財育成プロジェクトとして、文化庁が予算を出しているところです。ヘルスケア・アートの分野に国家レベルでの取り組みがはじまった。これは、すごいことです。それだけ、社会的な要請が高まりをみせ、それを受容するだけの社会的準備が整ったということです。アートが社会の中で活用されることは、増々、加速されるでしょう。

 

アートは、鑑賞物となるだけではありません。

力強く人の命を支え、人・コミュニティ・社会を円滑に活き活きと育ててくれるツールになります。

 

それを伝えるべく、アート事業と研究のプラットホームを立ち上げようと、想いを新たにしている、今です。また、進捗をお伝えてきたらと思います。